労働者供給事業

企業の声、就労組合員の声

労働者供給事業法制定に向けて

1、はじめに

労供事業法の制定を求める運動を本格化するに当たって、まず我々に求められることは、その運動が単に法律の問題ではなく、労働者としての働き方、生き方についての根本的な変革と同時に、日本社会の民主的変革と密接不可分とつながっているという確信を持つことだと考える。つまり、戦後日本資本主義の特徴である終身雇用、年功序列賃金、企業内組合の三本柱は、飽くまでも労働者個人と企業が労働契約を結ぶという企業中心社会が根底に据えられてきたということで、使用者より労働者の方が立場が弱いので、労働者の立場を引き上げるため、労働組合法や労働基準法で各種規制が行われてきたのである。
我々が「現行労働法制は、全て企業内労働組合を対象としている」と言って来た事は、今日の問題点を明確にするために「強い企業と弱い労働者個人が労働契約を結ぶという企業中心主義社会を前提とした労働法制」と言い換えることが出来るし、まさに我々が求めるところの労供事業法の真髄は「企業中心主義社会から労働組合中心主義社会へ」「営利企業中心主義から非営利組織中心主義へ」の革命的転換にあるともいえるのである。
実は、既に我々の先輩たちは、1974年の執行委員会の確認文書として次のように残してくれている。「新運転は、企業の枠を越えて運転業務に従事する労働者によって自主的に組織された職業別労働組合として、結成以来15年を経過した。この15年間に体験し、克服し、踏みこたえ乗り越えてきた多くの問題や事件の一つ一つをとってみても、それが、職業別労働組合に対する無理解と、体質的拒絶反応に起因し、職業別労働組合の存在をまったく予知もしなかった労働関係法やその他の法体系を当然の前提とするものの考え方に、その端を発していることが伺える。
労働組合は法律によって作られているのではないことは勿論だが、われわれは、労働者の生活と権利を守り社会的地位の向上を目指す組織は、職業別労働組合(産業別労働組合)以外にないと信じ、この組織を守り、拡大していくため、職業安定法に基づいて労供権を獲得し、戦術的武器とした。(中略)特に、職業別労働組合の形態をとるわれわれには、企業別中心の現行法は、多くの点で改革しなければならないものを持っている。法律を絶対視したり、これを固定的に守ることを至上のものと考えるのは、現実にそぐわないし、われわれは、組合員の権利と利益のためにいかにして法律を変革し、制度を改革するかに努力を集中し、労働運動の新しい境地を切り開いていかなければならない。ここにこそ、わが新運転の歴史的使命がある。」

2、この「新運転の歴史的使命」について

職安法が制定された1947年当時の日本は、敗戦直後の食糧難と高失業、ハイパーインフレという混乱状態にあったこととGHQ(連合軍)民生局の支配下にあって、憲法を頂点に戦後日本社会の民主改革の時代だったことを合わせて考えると、労働組合による労供事業は労働運動の基点として実は非常に大きな位置を占めていたはずだったと私は考えている。つまり、労働組合の行う労供事業は、公共職業安定機関などの行う職業紹介と相携えて、労働者の職業の安定と自由(強制労働の禁止)、中間搾取の禁止を実現することに加えて、労働と社会全体の民主化を促進する主要な担い手として位置づけられていたということである。
実際、職安法が制定された1947年の第一回衆議院本会議の議事録に、①従来の供給事業所属の労働者の常傭化を図るよう指導すること。②労働者をして自主的に労働組合を結成せしめ、その組合に無料の労働者供給の機能を果さしめること。③公共職業安定所を充実強化して十分その機能を発揮させ、従来の供給事業者の営んだ機能に代わらしめるよう努めるべきことという政府答弁が残っている。要するに、労供事業を行う労働組合(労供労組)は、戦後の混乱期の失業問題の解決と未組織労働者を組織化する三本柱の一つだったのである。こうして直接企業に雇用されない労働者が自主的に労働組合を組織し、個人ではなく組織集団の力を背景に多くの会社と労働協約を結び、その組合員はどこの企業で働いても同一労働、同一賃金の均等待遇を得ることが出来ると法的に明記されていたのである。これこそ欧米型の職能別労働組合というものであり、当時のGHQ民生局が戦後日本社会の民主化の一環として潜り込ませたのではないかと私は考えている。
要するに、企業に就職しないで職業別労働組合に加入し、個人と企業との力関係による労働契約よりも、労働組合法人と企業法人同士の対等な労務供給契約によって労働者の生活と労働条件の改善を果たすことが日本社会の民主化にとって有益であり、それこそ労働組合の社会的使命だったのである。
しかし、職安法制定以降の政府が行ってきたことは、③の公共職業安定所を各地域に作ったぐらいで、肝心の②については、法治国家として当然のやるべきこととして労働者派遣法を作ったように労働組合の事業内容や事業主としての必要事項などを法律によって推進せずに省令という形でお茶を濁し、結局、戦後日本の企業社会の特徴である終身雇用、年功序列賃金、企業内組合の三本柱を定着させ、企業の下に労働者個人が就職するという基本構造を固めてきたのである。
そして、バブル崩壊後の景気低迷という状況下の1995年、日経連(当時)は『新時代の「日本的経営」』を発表。内容としては、従業員(もしくは雇用形態)を「長期蓄積能力活用型グループ」、「高度専門能力開発型グループ」、「雇用柔軟型グループ」の3つに分け、それぞれに応じた賃金・教育訓練等の処遇を行うとともに、必要に応じた雇用調整を容易にするなどして、人材活用の面から経営の効率化を目指すものであった。それが2000年代に社会問題となった非正規雇用の増加や待遇格差の拡大をもたらし、リーマンショック以来の大量失業と貧困社会の原因となった。
その後の日本社会に蔓延してきたのが、価格破壊から始まって国と地方の行財政、社会保障、医療、環境、雇用破壊と続き、日本的な本物の良さが失われた偽装社会に陥り、とうとう人間破壊のどん詰まりまで追い込まれて来たというのが、昨今の状況ではないだろうか。そして、今回の東日本大震災と福島原発の人災という戦後最大の聞き手系状況を乗り越えるために日本社会のあらゆる点で本物の復権、再生がわれわれに求められている。 従って、日雇い労働の需要と供給に対して、全てを直雇用で対応することや労働行政の再生、復権も現実的ではない中で、もう一度戦後の職安法に立ち戻り、三本柱の残った一つである労働組合による労供事業に焦点を当てるべきである。
実は、この4月に「緊急に労働者供給事業を実施する労働組合御担当者様へ」として、「平成23年東北地方太平洋沖地震の災害により被災した組合員の就労を確保するための労働者供給事業の許可申請の特例」が発表された。その内容は、許可申請時に各都道府県労働委員会が発行する「労働組合資格証明書」の添付が間に合わない場合、当該証明書を後日提出することがでるというもの。8月31日までの緊急措置ということで、都道府県労働委員会に当該証明書の発行を申請しておき、後日、都道府県労働局に当該証明書を提出すれば、労供事業を始めることができるということ。
まさに国家緊急時における労働組合の役割の見直しを厚労省が認めていることの現れであり、労供事業法制定を進める絶好の機会としなければならない。

3、職安法の改正について

労供事業法制定の前提として、職安法の(施行規定)第47条 「労供事業に関する許可の申請手続その他労供事業に関し必要な事項は、厚生労働省令でこれを定める。」を「第47条の2 労働者派遣事業等に関しては、労働者派遣法 及び港湾労働法 並びに建設労働法 の定めるところによる。」となっている派遣法と同様に「労働組合による労供事業に関し必要な事項は、労供事業法の定めるところによる。」と改定する。

4、労供事業法の原案として

(1)、目的
職業安定法にもとづき労働者の自発的意思と協同の精神によって労働組合が無料で行う労供事業の民主的で適正・公正な運営の確保を図ると共に、非正規雇用、外部労働市場の肥大化という労働雇用情勢の変化に対応して、企業の枠を越えた労働者によって自主的に組織する職業別労働組合の社会的役割と団結力により雇用の安定、職業能力の開発、福祉の増進に資することを目的とする。

(2)、定義
一 労働者供給とは、供給契約に基づいて労供労組に所属する組合員を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいう。
二 労供事業者とは、職安法第45条の規定により労供事業を行う労働組合等(労働組合法による労働組合その他これに準ずるもの)をいう。
三 供給労働者とは、労供事業者に所属する組合員であつて、労働者供給の対象となる労働者をいう。
四 労供事業とは、労働者供給を業として行うことをいう。
五 職業別労働組合とは、企業と労働契約のあるなしにかかわらず、企業の枠を超えて同じ職種の労働者が地域別に結集する労働組合をいう。

(3)、対象業務
対象業務の範囲は、専門的知識、技術、経験を必要とする全ての業務と日々から長期を含む有期雇用の需要業務とする。

(4)、事業の許可など
①事業の資格要件として、労働組合等の規制を強化し、全国産別加盟か推薦を条件とする。更に②の5にある労働組合活動の保障並びに民主的運営の保障の(1)から(3)を資格要件とする。
②事業運営の原則として、民主的運営・組合員の職業選択自由と自由意思に基づく参加・あらゆる差別の排除・事業運営は無料・労働条件の明示・個人情報の保護・労働争議 への不介入 などの現行業務運営規定と事業運営などを列記する。
③供給先の確保と公共職業安定所との連携をはかり、その機能を相互に活用する。
④欠格事由を列挙し、許可の取り消し条項も入れる。

(5)、供給契約
供給契約とは、労供事業者と供給先企業との労務供給契約であり、供給労働者が供給先企業に使用されるという三者間労務供給契約をいう。
二、供給契約は、労働協約を文書で交わすことによって成立し、労供事業者は、労働協約外の企業に組合員を供給できない。
三、供給契約には、職務、賃金、労働時間などの供給労働者の使用に関する基本的項目に加えて、直雇用労働者に対する社会労働保険、安全衛生費、福利厚生費、教育訓練費などの間接労務費に相当する金額を基金として支出することを供給先企業の義務規程とする。その基金の管理運用は、労供労組と供給先企業・団体が共同で行う。
四、供給先企業が新たに正規労働者を採用する場合は、供給労働者から採用しなけらばならない。

(6)、適用除外

①労働基準法
第8回労供研究会での濱口氏報告にあった「船員法体系」によると、労働基準法第116条「第1条から第11条まで、次項、第117条から第109条まで及び第121条の規定を除き、この法律は、船員法第1条第1項に規定する船員については、適用しない。」となっていて、その具体的な条文は、「労働条件の原則•労働条件の低下•労働条件の決定•就業規則と労働契約の遵守•均等待遇•賃金の原則 •強制労働の禁止 •ピンハネの禁止 •公民権行使の保障 •労働者の定義 •使用者の定義 •賃金の定義 •同居の親族等の適用除外 •懲役10年or罰金300万円 •懲役1年or罰金50万円 •懲役1年or罰金50万円−2 •懲役6ヶ月or罰金30万円 •社長の責任 •社長の責任−2」となっている。

②社会労働保険
ここにおいても日雇い労働者個人の労働契約を前提としているために、「同じ事業主に以前2ヶ月間にわたって各月18日以上雇用されたものは除く」という雇用保険の規程や健康保険においても「2ヶ月を越えると日雇いから一般へ」となっている。この点について、大阪労働局の部内資料が参考になるが、基本的には労供事業法の中で適用除外とし、但書きで「労供組合員が、同一の事業所において長期間雇用の契約(概ね1年)が行われ、且つ将来において同様の契約が行われることが明らかである場合は、一般被保険者とすべきものと考えられる。」と結論付けている。
また、その同じ文章の中で、大阪府労働部職業業務課(労供事業担当)の考え方として「労供事業は、労働組合が行っており、この労働組合は、個人加盟の労働組合、『一人親方の労働組合』である。従って、通常の労働形態では取り扱えないものである」という記述もあり、行政の考え方としても適用を除外してきた経緯が見られる。

③労働組合法
(不当労働行為)第七条は適用除外とすべきと考える。この条文は「使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。」とし、その対象は労働契約を結んだ労働者が前提となっていることから、労供労組や供給組合員は対象外となる。
つまり、現行法は企業との関係で弱い立場にある労働者(労働組合)を守るということで不当労働行為の禁止を定めているのに対し、労供事業者として供給先企業との関係で供給契約を結ぶ対等な当事者である労供労組とそこに所属している供給組合員は、少なくとも不当労働行為の禁止によって守られるべき労働者ではないということ。